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あとゴッツ好きな人マジすんません
俺は大引、自分でこんなことを言うのもなんだが、オリックスの頼れるショートだが今はそんなことはどうでもいい…そんなことより血が欲しい!
なぜだろう…人間の血が欲しくて仕方なくて、今日も試合中もそればかりを考えていた。気が散っているときに楽天のガルシアが例によってがに股で打ったボールがこちらへ飛んできた。
俺はとっさにキャッチすると2塁で刺そうと後藤に送球したが、気がそぞろだったせいで球は後藤の顔面を直撃した。
しかしそんなことはどうでもいい…
血が…チガホシクテタマラナイ…
俺はふとカレンダーに目をやった。明日は9月9日だ。…そうだ、9と言えば坂口の背番号だ。何かの啓示としか思えなかった。
「そうだ、明日は坂口の血を吸おう!!」
俺は決意した。まあ今は3位だしちょっとくらい拝借したっていいだろう!坂口だって許してくれるはずだ。
そう決意した俺はトレーニングルームに足音も立てず忍び寄った。
そっと中を窺うと……、いたいたオリックスの頼れるセンターことお祭り男坂口智隆(26・独身・嫁募集中)である。
「お、ビッキー!」
だが何と言うことだろう。俺は自分でも完璧なほどに気配を絶っていた自信があった。
なのに、坂口のやつはあっさりと俺に気づき、あまつさえ朗らかな笑顔を向けてきた!
失敗だ。こっそり近づいて血を頂く作戦は水泡に帰した。
「後藤さんに謝ったんか?まぁ事故なのは向こうもわかってるやろうけどさ」
「おお……、も、もちろん」
俺がトレーニングをするでもなく、所在なさげに正面に立ったのを落ち込んでいると判断したのだろう。
坂口は労るように微笑み。手を止めて、手近にあったタオルでごしごし額の汗を拭い出した。話ならいくらでも聞くぞという合図なんだろう。
(いいやつや……)
改めてそう思う。元々こいつはいかつい顔をしてはいるけれど、人一倍気が利いてまた人一倍場の盛り上げ上手で、そしてこんな遅くまで一人ででも練習に励む努力家なのだ。およそ、欠点など見当たらない。
そう、だからこそ……
(その丈夫な体を活かして俺に献血してくれ坂口!!!)
一方その頃別の、トレーニングルームにいた田口はまがまがしい気を一瞬感じ、身震いした。おかげで汗だくの手からダンベルがすっぽ抜け、近くを歩いていた後藤の顔面に直撃したが、そんなことが気にならないほどの邪悪な気だった。
オリックスがアホな企画に駆り出すせいで大事なことを忘れがちだが、田口はメジャー帰りの選手である。メジャーといえばアメリカ、アメリカといえばそう、ゴーストバスターズの本場である。
田口は日本的な霊に関してはからっきしだが、アメリカ的な霊については簡単な除霊くらいはできる程のフィジカルを備えていたのだった。
しかしそんな田口ですらおののくほどに、京セラドームを黒い気が覆いつくしていた…
「なんなんだ…何が起ころうとしてるんだ…」
「何かおかしいわ………」
慌てて廊下に飛び出ると、深刻な顔をした鈴木ーーオリックスの誇るイケメン捕手が立っていて。田口ははっとなった。
「お前も感じるのか?」
「ああ……。実はさっき自然体の俺を映そうとしたら、鏡がいつもみたいな輝きを発さへんかった。何か……、禍々しいものがドームを覆ってる……。そんな気がするねん」
前半は理解できなかったので田口は聞き流すことにした。
だが内心さすがやな……と舌を巻いていた。アメリカで培った自分のゴーストバスターズ的な力に匹敵する観察眼。やはり、長年の捕手稼業による賜物なのだろう。
ちなみに、田口が最後に見たとき、鈴木はぶすっと膨れていた。田口が喜んで変わってもらいたかったアホ企画に出られなかったせいで、鈴木は若干へそを曲げていたのだ。
むくれる最年長捕手を宥める最年少捕手伊藤、そしてそれを苦々しげに少し遠くから見詰める日高ーー三者によって朝、ブルペンは異様な雰囲気だったのだが、それはまた関係ない話である。
「何か……、この部屋の中から禍々しい気を感じるわ!」
「奇遇やな、さっきから自然体のトレーニングルームに映える俺を見に行きたくてな。やからそっち行くつもりやってん」
やはり鈴木の言っていることの前半はよくわからなかったが、とにかく彼も異変を感じていることはわかった。
二人は、顔を見合わせて頷き。同時に、扉を蹴破るがごとき勢いでばっと開いた。
二人があぶない刑事のタカ&ユージのごとく、揃ってドアを蹴破ると、そこにはものすごい形相で坂口の首筋にかみつこうとしている大引と、まったくそれに気づかない坂口が居た。
「あぶない!!!!!!」
田口はそう叫ぶと坂口を突き飛ばし、鈴木は特に何もせずにドアのつるつるした表面に映る自然体の自分の姿のチェックをした。
「あっ田口さん!どうしたんっすかー!」
坂口は少々驚きながらも田口に挨拶をした。その横で大引は自分のしでかしたことに自分でも驚いているかのように、胸を押さえうずくまっていた。
「お前…気づかんかったのか?大引が今…首を噛もうと…」
「すんませんした!!!!!!おれ…どうしても我慢できなくて…」
あっけにとられる坂口をよそに、田口は焦り大引はかぶりをふった。鈴木は自分の前髪を気にした。
「なぜか俺、昨日から血がほしくってほしくって…今日は9日だし健康そうやし、坂口の血をちょっともらおうと…」
「そういうことやったんか…」
「え?何が?どうしたんっすか?」
「俺今後ろ髪跳ねてへんよな?なあ?」
場が混乱してきたので、田口は訳のわかっていない二人に対して説明をした。
「…こういうわけだが、大引にずっと血ほしい血ほしいと言わせるわけにはいかへん…どうにかせんとなあ」
今度は磨き上げられた全身鏡で自然体の自分を観察してうんうん頷く鈴木をよそに、田口は腕を組んでうむむと唸る。
「え?何かわかんねーんすけど、血がほしいんすよね?俺献血とかしてもスゲー血が濃いらしいんでちょっとぐらい……」
「アホか!!お前わかってへんやろうけど、一回でも血ィ吸われたらお前もおかしなんねんぞ!もうまともに野球できへんくなるぞ!もちろん大引もや!!」
「や、野球が……?」
さすがの坂口も青ざめて黙り込んだ。やっぱりまだわかってなかったんか、と田口は舌打ちする。というか未だ事態を把握しきれていないような気がするがとにかく今はそんなことはどうでもいい。
すると。あらゆる角度から入念に自分の自然体スマイルをチェックし終えた鈴木が、唐突に田口に向き直った。
「あ、そうや。なあ。血がほしいんやったら代替用品で我慢させてみようや」
「はぁ?」
鈴木はずっとうなだれていた大引を指差し。ついで、まだ事態をちゃんと把握していない坂口も指す。
「大阪トマトの陣、始まりやで」
外は真っ暗のはずだが、煌々と明るいドームにいると、今がいつなのかわからなくなる。
不安そうな顔で落ち着きなく辺りを見回す大引きを中心に置き、それをぐるりとオリックスの誇る精鋭たちがそれを取り囲んでいる図は物々しい。
「みんな――用意はええな」
重い口調で田口が告げると。はいよ、と軽いノリの返事、うすっ!という元気のいい返事はいという弱々しい返事など……とにかくさまざまな声が一斉に唱和する。
グラウンドにいるはずなのに、なぜかみんなが手にしているのは。ボールでもバットでもない。
トマトだった。
鈴木の告げた方法は、こうだ。
大引きはとにかく血をほしがっている。それならば、血のようなもので仮初ではあるが、それを思う存分満たしてやったらどうか、というもので。
鈴木のその発想がどこからきたのかさっぱりわからないなりに、だが田口のゴーストバスターズ的勘が告げた――これはいける、と。
一方当事者である大引と、罪もないのにあわや干からびさせられるところだった坂口は揃って不思議そうな顔をしていた。
「それではよ~い、はじめっ」
どこから持ってきたのかわからないが、鈴木は笛を吹いた。突然笛を鳴らされてさすがに全員戸惑っていると、ぐえっ、というくぐもった声がどこからか聞こえてきた。
「き…木佐貫…!」
全員の視線の落ちた先には、顔を文字通り真っ赤ににして倒れている木佐貫がいた。トマトの果汁のせいで、木佐貫のユニフォームの肩口あたりは猟奇事件の被害者のようだった。木佐貫は人のよさそうな困ったような笑みをこぼしながらいやあ、やられたなあと頭をかいていた。
先制弾を放ったのはどうも平野のようで、少し離れたところからYEAH俺第一号~Foooooとアメリカじみた雄叫びを挙げていた。それに触発されたのか、金子や近藤や西といった投手陣が次々にあちこちにトマトを投げたくりはじめた。
あちこちで果汁の飛び散る音と、青臭いトマト特有の匂いが漂い始める。例によって後藤はいやいや付き合わされている感満載といった体で腕組みをしていたが、流れ弾ならぬ流れトマトを何十発も被弾しているうちにやる気が起こったらしい。忍者のごとく周囲にトマトを投げ散らす後藤を見て、周りも余計に火がついたようだ。
「こんなん投手が有利じゃないすか~」
「いやそんなこと俺に言われても…」
ぶーたれる坂口を諌める田口だったが、背後から気配を感じて身を屈めると、びちゃりといやな音が頭上からした。田口が見上げるとそこには顔面がトマトまみれになっている坂口が居た。
「やったあああああああああ!」
ガッツポーズをする岸田に坂口も負けてはいない。手にトマトをむんずとつかむと、グラウンドを駆けて逃げる岸田を追いかけ始めた。田口は薄く笑うと、遠くにいる大引を見やった。大引は助っ人軍団から洗礼をあびている最中だったが、この代替品のおかげてすこし気がまぎれているようだ。田口はそれを見て安堵した。
(あれ、言いだしっぺの鈴木は…)
田口が周囲を見渡すと、鈴木は一人でビニールのポンチョを被った状態で、ベンチで足組みをして高みの見物を決め込んでいた。
「おい鈴木っ!」
と、田口が非難の声を上げたそのとき。
まるで監督か何かのように腕をめいっぱい広げ高みの見物に勤しんでいた鈴木の顔面に、びしゃりと赤い飛沫が飛び散った。
「ぐ……。自然体の……、トマトまみれの俺を見てくれ……」
「鈴木!?鈴木ィーッ!!?」
まるで遺言のようにそれだけ呟き。ずるずると鈴木が背から崩れ落ちていく。例えトマトまみれでも、こんなときでも顔面を守るのはさすがである。
田口が呆気に取られていると、鈴木の顔面を赤く染め上げた人物はゆっくりとグラウンドを振り向いた。
「お前ら……、何やってんだよ……」
「ひ、日高……!」
ゆらりと幽鬼か何かのようにこちらを振り向く様は、化け物になりかけていたはずの大引きでさえもヒッと息を呑むほどで。
狂乱のトマト祭を開いているメンツも何事かとそちらを見遣る。
「こんな、こんなことしてなぁ……、何が楽しいってんだよ!馬鹿なんじゃねえのか!?大体こんなやつのいうこと真に受けてっ……お前ら頭大丈夫か!?」
悲痛な日高の叫びに、グラウンドが静まり返る。
「日高……」
「大体俺は前からこいつが気に入らなかったんだよっ! 暇さえあれば鏡ばっか見てやがるしいっつもわけわかんねーこと言ってっ……!」
何かがやばい、そう田口が異変を感じ取ったとき、日高が絶叫する。
「大体大引がおかしくなったってんなら、こいつの血でも何でも吸えばいいじゃねーか!こんなおかしいやつ、血なんか吸われたとこで大して何も変わんねーよっ!!」
「日高お前っ……!冗談でもそんな」
はっと田口が振り向いたときには、遅かった。血、の単語に眠れる力が呼応したのか、大引きはトマトまみれの青臭い姿のままふらふらとグラウンドの隅へ吸い寄せられるように進み出。
「やめろっ、大引――!」
ちょうどそっくり返っているせいで、白い首筋が剥き出しだった鈴木の喉にがぷりと噛み付いた。
「鈴木ぃーーーー!!!!!」
「ウボェァアーーーー」
田口の絶叫ととんでもないえずき声が重なったのは、同時だった。
へっと田口が振り向くと、何と大引が喉を押さえて苦しみ出した。
「おうっぇぇ……、血、血……まずっ……」
「は……、ああ、何か悪い夢でも見てたんかな……。俺の顔面がトマトまみれになるなんて……」
「いや現実っスよ鈴木さん」
冷静に突っ込んだのはいつの間にかやってきた伊藤である。伊藤は呆然とする日高の横で、呆れ顔で腕を組んでいた。
「すんません田口さん、俺、目ぇ覚めました……!血ってほんままずいもんですね。もう俺二度と人の血を吸おうなんて思いません!!」
大引はひとしきりえずいた後、涙目で田口にそう訴えた。その顔にはもう邪気もなく、オリックスの誇るショートの瞳にはきらきらしい輝きが戻っていた。
「そうか……!ようやった!大引!鈴木!!」
「しっかし吸血鬼?の目も覚まさせるなんて……鈴木さんマジパネェっすね!! ハハハ超受ける~」
何がおかしいのか自分で言って自分でげらげら笑いながら手を叩く伊藤を尻目に、ごしごし顔を拭った鈴木は「ああ案外トマトまみれの俺も悪くないかもやな……」と新たな境地にたどり着こうとしていた。
こうして狂乱のオリックス大阪トマトの陣は幕を閉じた――といいたいところだったが。
「まだまだ投げ足りないっスよ!!」
「俺も不動のセットアッパーの実力見せつけられてないんで!」
「おいおい、守護神と呼ばれるアタシを忘れてもらっちゃ困るわよ!」
お祭り大好き三人衆の発言により、完全に趣旨の変わったトマト投げ大会が、再開されようとしていたのだった。
「ま、まあ無事坂口の健康も大引の異常体質も何とかなったしな……」
そう、一言でまとめようとしたところ。
「たぐっさ~ん!早くしないと顔面投げますよ!?」
「やれるもんならやってみいや坂口!!」
ほっとため息をついた田口は、ぎらりと人一倍目力のある瞳を瞬かせて坂口を睨んだ。
おわり
胃潰瘍を克服しつつあります
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